両天秤―菅政権における日中関係・日米関係―

自民党総裁選が9月8日の告示をもって幕を明けました。次期総裁の候補者たちの中で一際注目を浴びるのが、現在官房長官である菅義偉氏です。菅氏が安倍晋三首相の最有力後任候補であることは明らかと言えるでしょう。菅氏の総理就任は、外交分野を含めた安倍政権の政策の継続を意味する可能性が高く、本人も安倍路線を継承する意を表明しています。

それでも首相の交代は、日本の外交に変化をもたらすでしょう。安倍氏は歴代総理大臣で最長の在任期間中、他国のリーダーと強い人間関係を築き、安定性に定評があります。ドナルド・トランプ米大統領との友好関係は日米関係を安定させるのに役立ち、他国の指導者が異例の大統領への対応に苦慮する中で、トランプ氏との友好関係を維持しました。菅氏は官房長官として歴代最長の記録を持ち、国内政治や政策立案の経験は豊富ですが、国際的に注目される役職への就任経験はありません。

仮にトランプ氏が大統領として2期目を迎える場合、菅氏の海外との人脈のなさがトランプ政権に十分な政治的余裕を与え、日本側にさらなる譲歩を要求する第2段階の取引協定を提案し、より多くの国防費や在日米軍の費用をカバーする「思いやり予算」の増額を要求する可能性もあります。

しかし、ジョー・バイデン氏の勝利の可能性は依然として高いです。自民党は常に米国の共和党政権との相性が良かったので、バイデン氏の勝利は、自民党の政権交代よりも日米関係に大きな変化をもたらす可能性があります。バイデン氏は、東アジアの主要同盟国である日本と韓国の協力関係を強化したいと考えているため、両国に対してお互いに懐柔的になるよう米国が圧力をかける可能性があります。また、バイデン氏は北朝鮮のリーダーである金正恩氏との会談は考えていないと言っていますが、菅氏は拉致問題の解決に向けて金氏とは無条件で会談すると言及しています。

菅氏はワシントンに全く縁がないわけではありません。2019年5月に官房長官としては異例の米国公式訪問を行い、拉致問題についてマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官と会談しました。トランプ政権は菅氏とある程度の親交があり、安倍氏とは対米態度が大きく異なるとは考えにくいです。

しかし、米国は日本の防衛調達に対する考え方の変化に留意すべきであると言えます。イージス・アショアプロジェクトの中止や、グローバルホークの契約の再評価に関する最近の議論は、コスト削減と国産化を推進する姿勢を反映しています。こうした取り組みを推進してきた河野太郎防衛相が、新内閣でどのような立場になるのかが特に興味深い点です。

菅氏の対中姿勢はあまり知られてませんが、安倍路線を継承するという見方が有力です。安倍氏が岸信介氏のような戦時中の著名人と血縁関係や政治関係を持つ一方、菅氏にはそのような関係はないため、靖国参拝のような中国を揺さぶる政策や伝統を支持することはあまりないでしょう。しかし、菅氏は安倍氏と同じく保守系の日本会議のメンバーであり、自身は靖国参拝をしないものの、他の閣僚の靖国参拝に反対する発言はしていません。

特に中国は米国からの圧力の高まりに直面しているため、今回の政権交代を利用して日中関係の修復を試みる可能性があります。サプライチェーンを確保するために日系企業の中国撤退を促すという菅氏の決定や、TikTok等のサイバーセキュリティの問題は、菅氏が首相になった際の日中関係の基調となるでしょう。尖閣諸島周辺海域での哨戒活動や南シナ海への進出など、中国の海洋活動も日中関係を左右する重要な要素です。

菅氏が総理となった際には、米国と中国との微妙なバランスを取る必要があるでしょう。日本の安全保障は日米関係と密接に結びついてますが、経済利益の多くを中国に頼っています。中国と米国は、政権交代を日本に政策変更を促すチャンスとして利用する可能性があります。菅氏はこれまで総裁選で経済政策やデジタル化政策を重視していますが、外交には予想以上に時間と注意が必要になるかもしれません。
 

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弊社副社長の松崎豊は、約20年間国会議員の政策担当秘書を勤めておりました。元法務大臣の保岡興治議員と、現在東京都知事をしている小池百合子議員などの事務所におりました。

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